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ジェムデト・ナスル期 ― 文字と都市が生まれたメソポタミアの二百年
歴史・文明

ジェムデト・ナスル期 ― 文字と都市が生まれたメソポタミアの二百年

紀元前3100年から2900年、原楔形文字と神殿経済と都市間ネットワークの誕生を考古学の証拠からたどる

メソポタミア文明と聞いて、ジェムデト・ナスル期という名前を思い浮かべる人はほとんどいません。ウル、バビロン、ハンムラビ法典。教科書に太字で載るのは、いつもその先の時代です。 けれども紀元前3100年から紀元前2900年までのこの二百年に、その後の五千年を支える三つの装置が、ほぼ同時に立ち上がりました。言語を写し取る文字。行政と宗教と経済を束ねる都市。そして都市同士をつなぐ広域ネットワークです。 本書は、この二百年だけを正面から扱った日本語の専門書です。 1926年、オックスフォード大学のスティーヴン・ラングドンが小さな丘を掘り、243枚の原楔形文字粘土板を掘り当てました。そこに書かれていたのは、大麦とエンマー麦の数量、麦芽の配給、そして誰かが誰かに何かを渡したという記録です。壮大な神話でも王の戦勝でもありません。だからこそ、その粘土板は当時の社会の骨格を、まるごと保存していました。 本書は、考古学的証拠から離れないという方針を最後まで貫いています。わかっていることはわかっていると書き、議論が割れている論点は割れたまま、複数の学説の根拠と弱点を並べて提示します。年代幅に百年の揺れがあることも、1928年の第二次発掘の記録が不十分で後世の分析を難しくしたことも、隠さずに書きました。 対象読者は、古代文明や考古学に関心を持つ一般の読者、世界史を学び直している方、そして文字・都市・国家という制度がどこから来たのかを考えたい方です。予備知識は必要ありません。専門用語はその都度、本文中で定義しています。 読み終えたとき、あなたの中の「文明の始まり」という言葉の解像度は、確実に上がっているはずです。 【本書のダイジェスト目次】 第5章 原楔形文字の誕生 ― 記号が、言語をつかまえた日 ウルク期の「もの記号」と何が決定的に違ったのかがわかり、文字の発明を一点の出来事ではなく段階的な飛躍として捉え直せます。 第6章 粘土板が語る経済と行政 ― 大麦の数字から、社会の骨格を復元する 配給記録という無味乾燥な数列から、神殿主導の再分配経済がどう動いていたかを読み取る手順を追体験できます。 第7章 封泥と都市名 ― 13枚に押された、同じ印の謎 都市同盟説・神殿ネットワーク説・実務取決め説の三つを根拠つきで比較でき、未解決の論争を自分の頭で判断する材料が手に入ります。 第8章 円筒印章の芸術と意味 ― 小さな円筒に刻まれた宇宙観 ジェムデト・ナスル様式の図像を読み解く視点が身につき、印章が署名であると同時に世界観の表明でもあったことが見えてきます。 第10章 大型建築と都市空間 ― 92メートル×48メートルが意味するもの 泥レンガと排水管という技術の水準から、都市が機能ごとに空間を分け始めた瞬間を具体的に把握できます。 第12章 交易と遠距離交流 ― 資源のない土地が、なぜ豊かになれたのか 石も金属も産しない沖積低地が湾岸・オマーン方面と結んだネットワークを知り、交易が文明の必然的な条件だったことを理解できます。 第17章 初期王朝期への移行 ― 断絶ではなく、成熟だった 洪水伝承と考古学的証拠の関係を整理し、時代区分の境目で実際に何が連続し何が変わったのかを見極められます。 このほか、地理と気候、灌漑農業、社会階層と「エン」称号、宗教と祭祀、同時代のエジプト・原エラム・インダスとの比較、研究史、文化遺産の危機と保護、そして現代考古学の新手法まで、三十章を超える構成で扱っています。 掘れなくなった遺跡の情報を、デジタル技術が救い出しつつある現在。ジェムデト・ナスル期についてわかることは、これから確実に増えていきます。その更新され続ける章の、今いちばん新しいページからお読みください。

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